adidas PREZ


この2ヶ月の間に、長年親しんできたブランドでもあるadidasからスニーカーを2足発表した。発売に至るまで約1年半かかった今回のプロジェクトを簡単に説明したいと思う。
2012年秋頃、後輩がadidas84-LABのディレクションを行なっている倉石氏を紹介してくれた事から始まった。僕が過去に手掛けたSTAN SMITHのリメイクのアイデアが彼の目に留まり、話がしたいとのことでアトリエを訪ねてくれた。その頃、STAN SMITHにちょっとした異変が起きており、バージョン違いのものなどが多く出始め、収拾がつかず一旦販売を中止する事になったという。2年後の2014年春の発売復活に合わせて僕のアイデアをワンオフもので商品化したいという内容だった。それが今月発売された「STAN SMITH PLAY」のこと。
STAN SMITHの話や他にadidasについての会話が弾んだ時、「そんなに好きならゼロから他に1足やりますか?」と倉石さんの何気ない一言。僕にとっては衝撃的なオファーだった。それが後の「adidas PREZ」になる。
それから数週間が経っても、どうにもイメージが出て来ない。戸惑いのポイントは明確で、新しいことをやりたい!というデザイナーくさい自分と、これまで好んできたOLD SCHOOLなadidasのスタイルを踏襲したデザインにする!という選択肢に揺らいだこと。大胆なヒモの位置、三本線の巨大化、などなど幾つか奇抜なスケッチをするが、これまでの数々のadidasの名作への賛美が何度もそれを妨げた。本当にこれまでの自分がこれを履きたいと思うだろうか。とにかくデザイナーの自分より一人のadidas fanとしての自分が常に上回っていた。そこでなぜ、自分がその形状を好んで履いていたのか、どこに好きなポイントがあるのかなどを探るため、近い模型を幾つか作り、検証してみることにした。


左はROD LAVERのつま先部分を小さくしたスタディ、右はSTAN SMITHの穴位置を後ろにずらしたスタディ。

多少穴の位置をずらしたり、減らしたりしながら様子を見ると、やはりこれまで作られてきたデザインは当然の如く、奇麗なバランスであることにも気付いた。そんなことをしているうちに少しの差で大きな変化を生む自分なりのポイントを"つま先"と"ソール"の形状に見出した。デザイナーである自分とadidas fanの自分が合致した瞬間だった。
adidas superstarのつま先のシェル部分に見られるボリューム感を意識し、指先の自由度も考慮に入れ、細身のボディからつま先にかけてのボリュームアップを意識したデザインという一点に集中することにした。土踏まずの部分からつま先にかけてソール部分が次第に厚くなり、最大で1cmほどの高低差を出して、視覚的にもボリュームを持たせることを試みた。しかし、ソールの造りだけには制約があり、金型が必要な形状のソールだけはナシになった。そこで金型を作らずソールの形状を変化させられる手法としてフォクシングテープを回して作られるソールに着目した。馴染みのある例を出すとConverse All Starのソール部分にぐるりとテープ状のものが回って張り付いているソールの工法がそれである。adidasの製品の中では、テープの幅が均一か、もしくはつま先に向かって細くなっているものが多く、本来のスニーカーの見えがかりとしてはかかとの方が厚めに見えるのが従来の姿ではないかと思う。名作GAZELLEもつま先部分に向かって細くなっている。


adidas GAZELLE

やりたいことをカタチにした模型が完成し、倉石さんに見せたところ「何か見たことの無い、良い感じになりましたねえ」と求めていた感想を頂けた。その後のadidasスタッフの反応を聞いたところ、「こんな模型で提案してきた方は初めて。身が引き締まる思いです。」というこちらも嬉しい反応が返ってきた。その後、数ヶ月をかけてソール以外の金型を製作。足の甲の部分から指の付け根部分で一度沈み、指先に向かって膨らみを作るという形状はやはり金型が必要だったとのこと。関係者のみぞ知る製作現場。一度見てみたかった。


PREZ最終スタディ

50以上のネーミング候補から「PREZ」だけが審査に通り、命名することになった。adidasの歴史の中で使用したことがある単語は二度と使えないということで、英単語で名前を決めることは相当難しいとのこと。「PREZ」とはスペイン語で「栄光」という意味である。結果的にadidasらしいネーミングになり、今では第一候補だったかのように思えている。
現在、世界中で販売を続けているが売れ行きは好調でそろそろ人気のサイズにsold outが目立ってきた。今後、同じ形状のものが作られるかは未だ分からないので、興味のある方は早めに手に入れることをお勧めしたい。



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